また俺と組んでくれ?

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また俺と組んでくれ?

ロクは、 「だから、俺とまた組んでくれ」 などと続ける。やばい、危うく絆される所だった。 「何が、だから、だ。嫌だね。俺は今のお前の絵あんま好きじゃねぇし、次の仕事があるんだよ」 「次ってなんだよ?」 「なんか最新鋭の若手と、一緒に作品作らないかって言われてんだよ」 空に映像と文字を浮かび上がらせたいから、大自然の映像につける物語を考えて欲しいと言われていた。 今書きたいものが題材に合わないし、もう誰とも組む気が無いから断ろうと思っていたが。 「そいつの絵の方が好きなのか?俺の絵よりも?」 「あ?ああ、まあな。つーか、お前はどうなんだよ。なんでか知らねーが、俺とまた組みたいのはあの頃のお前の絵に戻りたいからだろ?別に俺の書き起こす物語が好きって訳でもなんでもねぇんだろ」 最新鋭の若手は確か絵じゃ無いけどな。撮った写真や動画を繋ぎ合せてどうたらこうたらと言ってたけど、わからん。若い子ってそんなのまで使いこなせるの、しゅごい。ってなっただけだった。小説で使いたくなったら調べよう。 「俺にとって、お前の小説はよくわからん」 「え?お前にとって俺って若い子なの?」 あまりにも拍子抜けした回答に、思わず突拍子も無い疑問で返せば、ロクは思いっきり怪訝な顔をした。 「もしかして、事故で頭打ったせいで字が読めなくなったとか、文章の理解力に支障をきたしたとか、それか……そもそも読んで無え?」 「読んでる。エゲンが出版した物は全て買って読んだ。新作が出るまで、それまでに買った本を何度も繰り返し読んだ」 「それはどうも……で、難しかったとか?」 大人向けから子供向けまで書いているが、それほど難解な文章を書いたつもりは無いのだが。 「読む度に、胸が苦しくなった」 「そんなに興奮するほど、エロい話を書いたつもり無いんだけど」 「どんなに幸せで温かな話を読んでも、腹の底から笑える話を読んでも、読んだ後には必ず胸が苦しくて痛い」 「心臓かー、病院って何科だろ?嫁さん良い保険にかけてくれてっかな」 エゲンの言う事は無視して、胸元をシャツがシワになるくらい握り締めている。 正直、エゲンにも覚えはあるが、エゲンとの記憶のないロクがそんな風になるなんて驚きだ。 氷入りのグラスで冷やされた無骨な指先が伸びてきて、シャツの袖ごと、手首を掴む。 あんなに繊細な絵を生み出すのが信じられないくらい、男のエゲンから見てもゴツゴツとして大きな手は、画材で汚れていない時が珍しく、普段はガサツに動かすくせに、絵を描く時と、エゲンの身体をなぞる時には、恐ろしく甘く柔らかに触れるのだ。 「ただの仕事仲間のお前は、知っているんだろう。こうなる原因を」 気紛れに身体を重ねた事はあるが、愛を絡めた事なんて一度も無いのに。
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