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女王のマントと暗闇。旅路
女王のマントと暗闇は世界中の多種多様な場所を巡り、千差万別の景色を見て回った。
移動する為に、女王のマントは、代々王たる者のみだけが背負えるものというプライドがあったから暗闇に背負わせる訳にはいかなく、かといって軽くジャンプは出来るけど空を飛べる訳もなく、絨毯のように丸められて小脇に抱えられるのも嫌だったから、女王のマントは代々王たる者の背に合わせて大きさを変える事が可能だったから、ハンカチ程の大きさになって、暗闇の胸ポケットに収まる事にしたのだ。
暗闇は全身暗闇色で、着た服も暗闇に染まるのだが、女王のマントは染まる事無く、暗闇の左胸をいつも華やかにした。
だからいつも、暗闇の胸ポケットは沢山の人々の羨望の眼差しを集めたが、暗闇にしてみればそんな事よりも、様々な旅先でふたりで共に見て感動した色彩となった女王のマントと片時も離れずに居られる事の方が何よりも嬉しかったのだ。
しかし、いつまでも旅を続ける訳にはいかない事くらい、わかっていた。
多くの国民や各国の偉い人を集めて、大規模な式典がもうすぐ行われる事を知っていたからだ。
その式典で代表となる女王の背に、女王の美しいマントがはためいていないと、女王と女王のマントの名誉に関わる事になりかねない。
女王のマントと暗闇の別れは近付いていた。
「女王のマントと暗闇は別れちまうのか?」
製本となった最新作の女王のマントと暗闇を読みながらロクはエゲンに尋ねた。
「いーや、俺は心の底じゃあハッピーエンド主義なんでね」
少しは何か腹に入れろと言って、ロクが握ったお握りを片手に、もう片方にはペンを握って答える。
「どうだかな、そう言って前の小説で主人公殺してたろう」
「あれは、キャラが勝手に動いちまったんだから仕方ねぇだろ」
「なら、女王のマントはお前に似てプライドが高ぇ所があるからな、代々王となった者のマントってのに誇りを感じてんだろう?万が一ってのがあるかもな」
「させねぇよ」
「そうか、楽しみしている」
しねぇよでは無く、させねぇよと言った。
楽しみにしていると言って、珍しく微笑んだロクが、何故だかキャラに親近感を持っているみたいで、可愛い絵柄の絵描きってロマンチストなのかよって嘯きながらも嬉しかったから。
なのに今ではこの有様だ。
「あなたのせいよ。あなたのせいでこんな事にっ。あなたが彼を仕事として絵の道に誘わなければ、彼は私と結婚して家族に囲まれて、絵は趣味として続けるくらいで、今頃は幸せになっていたのに」
「あなたのせいでっ!!」
投げつけられた紙切れは、何度も目にした文字が書かれている。
『お前には不相応だ。今すぐに関わりを断たなければ制裁を下す』
「これが彼のポケットに入っていたの。彼を轢き逃げした犯人だって捕まっていないわ。ただの作家でしかないあなたには、彼を守れないっ。お願いだから、もう彼から離れてっ!私に返して!私なら、彼を守れるわっ」
紙切れをポケットにしまい、ロクの許嫁の悲痛な声を聞きながら、病院のベッドの上で未だに目を覚まさない、あちこち傷だらけらしいが、特に酷かった腕の怪我と頭の怪我にされた手当が重々しいロクを見つめた。
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