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プロローグ
「ごめん、俺たちもう別れよう」
「えっ‥‥」
「百合って本当に俺のこと好き?百合の気持ちが分からなくてしんどい。ごめん」
蒸し暑さが残る8月末の金曜日の夜。
仕事が忙しくて2週間会えてなかった彼氏と久しぶりのディナーをした。
食後、お店を出て歩き出し、私のマンションの前で立ち止まった彼氏が私に告げたのは、別れの言葉だったーー。
合コンで出会い、彼からの積極的なアプローチで付き合い始めて半年。
それなりに順調に付き合ってきたと思う。
だから、この別れ話は私にとっては突然だった。
少し伏し目がちになりながら、申し訳なさそうに私を見つめる彼と向き合って、私はゆっくりと口を開いた。
「わかった。今までありがとう」
別れたいと言われてすがる気持ちにはならなかった。
申し訳なさそうな顔色を浮かべる彼を見て、安心させるように少し微笑む。
私がそう返事をすると、別れの言葉を紡いだのは彼の方なのに、彼の方が辛そうに顔を歪める。
「やっぱり百合は、俺と別れることなんて、なんとも思ってないんだね」
最後に一言ボソッとそう呟いた彼は、それ以上私の方は見ず、そのまま踵を返して立ち去った。
その後ろ姿をじっと見つめて思う。
(またか‥‥ )
ーー本当に俺のこと好き?
ーーなんとも思ってないんだね。
これらのセリフを今まで何度男性に言われただろうか。
彼の後ろ姿が見えなくなると、私はマンションのエントランスにあるオートロックのドアを開け、自分の部屋へと歩き出した。
そして部屋に着くと、ジャケットを脱ぎ、ソファーに深く座りながら、ふぅーっとため息をつく。
目を閉じると、脳裏に浮かぶのは高校生の頃に付き合っていた初めての彼氏。
ブレザーを着た彼の姿と、柔らかな黒髪、端正な顔立ち、私を呼ぶ声が頭に蘇る。
あれからもう10年。
ーーなのに、私の時間はあの頃で止まったままだった。
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