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 俺は医者の家に次男として生まれた。厳格な外科医の父と、父に従うことしかしない母。幼い頃から俺も兄も医者になることを望まれていた。  小さい頃はそれでよかった。同級生と比べると勉強も運動も成績が良く、親も教師も満点の試験結果を見ては破顔して褒めてくれた。俺もそれが嬉しかったし、素直にこのまま上を目指そうと思った。  だが、そう簡単にいくわけがない。成長するにつれて、己の限界を悟るようになる。新たな環境に身を置くと、上には上がいるのだと思い知る。  そして一番厄介だったのが、兄の存在だ。あまりにも出来が良すぎたのだ。勉学においても、人としても、すべてにおいて兄は他に負けることがなかった。兄こそがこの世界の一番上に立っているとさえ思うほどだった。俺は兄に勝てるものなどひとつもない。  両親は出来損ないの次男に構うはずがなく、我が子は長子ただ一人だとでも言いたげに、俺を蔑んだ。悔しいとか悲しいとか寂しいとか、そんな感情を抱いたこともあった。もう俺はいなくてもいいかと思うときもあった。兄は何も悪くない。俺が一番じゃないから悪いのだ。ぐちゃぐちゃに引き裂かれた自尊心を繕うために、俺は他の人間を見下すようにした。  俺が一番。この世界では俺が一番上である。 そうやって自分を騙すことで、どうにか心を保って生きてきた。他人を顧みることなく己だけが大事だと驕って、何故か徐々にその生き方が心地よくなっていった。もしかしたら俺は最初からこういう人間だったのかもしれない。いや、きっと俺だけじゃない。人は誰もが生まれながらにして狂っているのかもしれない。俺はそれを自覚できているのだからまだいい方だ。  そう考えた方が、気が楽だった。
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