あらすじ

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あらすじ

 いつからだろうか。僕が生きるふりをする、つまらない枯れた人間のようになってしまったのは。  何を見ても面白いと感じず、楽しいということも年月が経つにつれて減っていってしまった。  遠い昔の記憶はほとんどない。児童センターで記憶を無くした日から、僕は抜け殻のようになってしまったと母は言う。  小学校低学年の頃、父は僕の記憶を追うように亡くなった。脳出血だった。  時間が経ったとはいえ、幼い頃に多くのものを失った僕には、生きる方向を見失うほどの出来事だったのだ。  僕は花になりたい。そよ風に吹かれ、美しい姿を持って人気のない場所で枯れて消えたい。  月に憧れた日もあった。何もせずとも、世闇の中で光を放つだけで誰かに見てもらえる。  僕は一生こんな人生なのだろうか。いいや、きっとそうなのだろう。  消えてしまった幼少期の記憶は、幸いにも少しだけなら残っていた。だが、とても大切な何かが失われてしまった。とても大切だったと思う。  ただ僕の心の中には、そんな薄っぺらな感情だけが根強く残っていたのだ。  きっと来世でもこんな気持ちで僕は生まれ落ちるのだろうと、枯れた薔薇のように自分を悔やんだ。
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