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プロットを見ただけで、どれくらいの文字数になるのかおおよそ分かるのか。確かに、入部直後に高校生時代に書いた小説を一部読んではもらったし、多少癖は理解されているかもしれないが。
私はやや驚いたあと、どうすればいいですか?と彼に尋ねた。異世界の扉を開く鍵を巡って、冒険者達が旅をする物語――そのコンセプトは、できれば崩したくない。削れる場所がどこなのか、私には正直まったくわからなかったのである。すると。
『見たところ、君が描きたいのは主人公のヒロインと、相手役の青年、青年の親友という三角関係。その三人が絆を結んで、冒険する物語』
彼はプロットに目を落として、そう告げた。
『他のサブキャラクターを削れば、エピソードはその分削れる。その代り、そのサブキャラが担う能力をヒロイン以外の二人に担わせる。ヒロインは性質上、これ以上チートを積むと読者から共感されにくくなる……このタイプなら、“普通の少女”の域を出ないキャラクターの方が無難』
『そ、そうなの?』
『それに加えて、最後の塔に至るまでの町そのものを一部カット。例えば、買い物がメインになっている“緑の町”はそのままカットできるし、サブキャラにスポットを当てるために用意するであろう“藍の町”のエピソードもそのままカットできる。代わりに、もう少しだけメイン三人の話に厚みを持たせた方が良い。特に、親友の青年とヒーローの関係をもう少し掘り下げないと、親友の青年がただの当て馬で終わってしまう。それでは印象が良くない』
彼のアドバイスは、どこまでも的確だった。ファンタジーは、油断すると果てしなく長い物語になってしまう――書き始めてからそれに気づくと挽回が難しい。そして、キャラクターを出すからにはそれぞれに的確な役目と掘り下げが必要。非常に単純なことだが、私は自分がどれほどその“単純なこと”をわかっていなかったのかを思い知らされたのである。
その後。彼が、とある公募で佳作を取った物語を読ませて貰った。ホラージャンルだというので、てっきり怖いばかりの物語だと思っていたのだがそれはまったくの誤解だった。――ホラーでも、キャラクターの魅力を掘り下げることはできるし、読む人間を共感・感動させることはできる。彼の物語で、私はそれを心の底から痛感させられたのである。
『あ、あの、雪村先輩!』
彼に強く惹かれるきっかけは、彼の物語からだった。
『わ、私……私にもっと、“物語”を教えてください!私、先輩みたいなお話が書けるようになりたいんです!!』
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