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【前編】
私って、バカ。
スマホを握りしめたまま、改札前でぽつんと佇み、私は深くため息をついた。時刻は、十時を過ぎたばかり。待ち合わせは十一時だと決めたのは私の方だというのに、何でうっかり一時間も早く来てしまったのだろう。
当然、相手の姿はまだ見えない。電車が来るたびにちらちらと人波を確認してはいるが、当然見つけることはできなかった。というか、私の方が“青いコート着て待ってます!”とわざわざ目立つ服宣言をしているのである。こっちが気づかなくても、さすがにあっちか見つけてくれるだろう。それでも反応がないということは、ようするにまだ待ち合わせに来ていないということである。
――うう、ここで一時間待つって結構つらい。ドキドキして死にそう。
彼と一緒に遊びに行くのは、既に三回目。三回目のデートだと、言えなくもない。一度目は映画、二度目も映画、三度目の今回は水族館。かなりお上品な場所にしか行っていないがゆえに、向こうがデートだとまったく思っていない可能性もなくはなかった。というか、私達はどっちかが告白したわけでもなんでもなく、ただ私が“こういう映画あるんですけど、先輩どうですか?”と誘ったら向こうが乗ってきたという、それだけの関係なのである。
私と彼は、同じ大学の文芸部員。
現在の関係は、それ以上でもそれ以下でもない。ぶっちゃけ、私はほぼ一方的に彼のことが好きになってしまったという、ただそれだけのことなのである。無論、向こうも嫌いな女子と一緒に映画なんて行かないだろうし、まったく脈がないわけではないだろうが。
――あーでも、でも。“あの”雪村先輩だもんなあ。マジで、なーんも気づいてない可能性あるよなあ。
彼は、どう思っているんだろう。ちゃんと進展を望むなら、私からもっとアプローチしていかなければいけないのに。
そう思いながらも、結局身動き取れないまま出逢って一年が過ぎている。十一月末の、S駅改札前。今日も私は、一人で百面相だ。
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