不協和音に誘惑

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しっとりと、汗が滲む手をテーブル下で握る。 ポケットで執拗に震えるスマホ 周りにかき消されるバイブ音 「…」 …どうして、こうなったんだろう。 わたし、さっきまで何してた? それが今、どうして… 「ニコちゃん、歌わないの?」 真上からふわりと現れた逆さまの顔。 後ろに立っているその人は、背中を丸めて強引に私の視界に入り込むと、重力に下がった髪の下から惜しげも無く端正な顔を覗かせる。 目も鼻も口も全部が逆さまで、瞬きも逆さま。 ビックリする私を他所に、その人は目を細めてケラっと無邪気に笑う。 「…」 ―――私とは、住む世界が違う男の人。 …カッコイイだけなら良い。 耳にピアス、髪はさらっとした赤毛 笑った口には鋭い八重歯 凶暴な一面が見え隠れする犬みたいな男の子は、ケラっと鮮やかに笑ってみせて、簡単に私の世界を、壊してしまう気がした。
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