舞い降りて湧いた恋

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___________ カウベルを鳴らして クラシカルなドアを押し開けた。 手狭な店内は満席だったが 風音たちは奥の窓際の角の席に座る事ができた。 向かいに座る青年と 青年の背景の喫茶店の装飾をパノラマで捉えると いつもの喫茶店がとんでもなくロマンチックな色彩を帯びてくる。 ただのブレンドコーヒーが高貴な飲み物に転じ 自然と振る舞いを上品にさせる。 たわいもない会話を楽しむ青年に心奪われ 風音の表情も乙女のように光を帯びていた。 何もかもが夢のようだった。 お金の無心をする男達にたかられる事が日常となっていた風音にとって リボンのかかった贈り物をもらったような特別な出来事だった。 見渡せばテーブルを挟んで会話を楽しみながら コーヒーを飲んでいる男女がそこここにいる。 そんな平穏で平凡な時間を風音も手に入れているのだ。 「あ・・すみません。もう、こんな時間に・・」 「あ! こちらこそすみません・・!」 2人は、どちらからともなく立ち上がった。 と、青年は私物を回収するように自然に明細書を手に取ると 優しく微笑んで行ってしまった。 風音が慌てて追いかけて財布を開くと 「ここは僕が・・」 と、優しくもキッパリと言った。 風音はクラクラした。 生まれて初めて言われたセリフだ。 何が何だがわからないまま 青年とのひと時は幕を下ろした。 爽やかに去って行く青年の背中を見送ると また、あの公園に戻ってきていた。 そして、さっきのベンチにぽてっと座った。 仕事に行くのも忘れて ぼーーーーっと、ベンチに座っていた。 すると、何かが視界に入った。 何となく目で追っていると 手の平にポツリ 『ご利用ありがとうございました。  あなたの欲しいものの利用は以上です。』 それは、舞い降りて湧いた恋の請求書だった。
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