彼女になりたいわたしの恋の話

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***  一ヶ月前。わたしは、ずっと憧れていた梁井(やない)碧斗(あいと)先輩に玉砕覚悟の告白をした。  ひとつ上の梁井先輩を意識するようになったのは、まだ私が高校に入学したばかりの頃。マネージャーとして入ったサッカー部の活動中に、校庭の水道のそばに立っている彼を見かけたことがきっかけだった。  蛇口から水でもかぶったのか、陸上部のユニフォームを着て肩にフェイスタオルをかけた梁井先輩は、髪や額からぽたぽたと軽く水を滴らせてどこか遠くのほうを見ていた。  彼の黒髪についた水滴が、夕暮れの太陽の光で煌めいていて。泣きぼくろのある左側の頬に、額から流れていく雫がまるで涙のように見えて。初めて、男の人のことを「綺麗だ」って思った。遠くを見つめて佇む梁井先輩の儚く憂いを帯びた姿に、瞬きも忘れて見惚れてしまった。  それ以来、わたしは梁井先輩のことを見かけると目で追いかけるようになった。  サッカー部と陸上部の練習が校庭で一緒になったときは、マネージャー業務をするフリをしながらこっそり梁井先輩のことを見ていた。    部活中の梁井先輩はいつもひとりで黙々と練習メニューをこなしていて、ハードそうな練習のときも全く苦しげな表情を見せない。  休憩中も部活仲間とは絡まずに、ひとりで座っていることが多くて。たまに話しかけられても、にこりともしない。    部活以外のときにときどき校内で見かける梁井先輩も、たいていひとりで行動していた。  ひとりが好きなのか、クールで近寄り難い雰囲気があるからあまり人が寄って来ないのか。それはよくわからないけれど、梁井先輩のあまり感情を表に出さないところも、わたしにはすごくかっこよく思えた。  だけど、梁井先輩に憧れていた女の子はわたしだけではない。誰が見たって美形な梁井先輩は、とにかく女子にモテていて。学年が違うわたしの耳にも、何年生の誰が梁井先輩に告白したらしいという噂がしょっちゅう回ってきていた。でもその噂には必ず「梁井先輩は告白を断ったらしい」というオチもくっついてきた。  梁井先輩はモテるけれど、どんな美人に告白されても素っ気なく断ってしまう。女子生徒たちのあいだでは、難攻不落で有名だった。
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