彼女になりたいわたしの恋の話

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 誰からの告白も受け入れない梁井先輩。そんな彼と話したこともなければ名前すら認知されていないわたしが、告白したって無謀だということはよくわかっていた。  だけど、どうせ振られるなら、心の中に想いを燻らせているよりもちゃんと伝えたほうがいい。そんな持論を話したら、一緒にサッカー部のマネージャーをしている春菜にも、クラスで一番仲が良い沙里にも「変なところで潔いね」って失笑された。  ともかく、梁井先輩のことを好きになってからのわたしは、彼に声をかけるチャンスを静かにじっと窺っていて。ついに一ヶ月前。声をかけることに成功したのだ。  部活中、空になったタンク型の水筒を両手にふたつ持って校庭の水道に行くと、梁井先輩が立っていた。  陸上部のユニフォームを着た肩にフェイスタオルをかけた梁井先輩は、わたしが一目惚れしたときと同じようにぼんやりとどこか遠くのほうを見ていた。水道で顔を洗ったまま拭いていないのか、額や頬に水滴がついている。  吹き抜けてきた風が、梁井先輩の黒髪を攫って揺らす。遠くに視線を向けたまま目を眇めた彼の横顔は、いつにもまして儚げで美しかった。  梁井先輩の横顔をぽうっと見つめていると、彼がふいに、肩にかけたフェイスタオルで額の水滴を拭いながら振り向く。  自分が邪魔になっていると勘違いしたのか、両手にタンク型の水筒を持って間抜けに突っ立っているわたしに気が付いた梁井先輩は「悪い」と言って場所を空けてくれた。  梁井先輩の素っ気ない低い声に、鼓膜がビリビリと震える。短いひとことだったけど、梁井先輩に初めて声をかけられたことでわたしのテンションはギュンと上がってしまった。 「あ、の……! わたし、(みなみ) 唯葉(ゆいは)って言います。梁井先輩に聞いてほしいことがあるので、部活が終わったら中庭に来てもらえませんか?」 「は?」  顔にタオルをあてた梁井先輩の秀眉が歪む。不審に思われていることは明らかだった。もしかしたら、不審を通り越して気味悪がられているかもしれない。でも、もうあとには引けない。
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