両手の花を

1/1
前へ
/1ページ
次へ
ポツリ。 冷たい水滴が頭のてっぺんに落ちる。 びっくりしてその場所を押さえると、それに反応して隣の人がびっくりした顔をする。慌てて軽く会釈するも、なんだか気まずい。 どうしよう、今のですっかり忘れてしまった。結構いい感じの文句を思いついたのに。 今日の会議で提案するキャッチフレーズを考えていたのだ。ずっと考えていたのに。この課題を出されてからずっと考えていたのに。この課題を出されてからずっと。 真っ白だ。 まったく思い出せない。 思い出そうとしても、モヤが邪魔をする。 ポツリ。ポトリ。 一滴の水滴が、今まで積み上げてきた時間を凍らせて砕いてしまっみたいだ。 集めなきゃ。掻き集めなきゃ。氷の破片にその時間が反射しているうちに。 どうせなら、至極の案が落ちてきて欲しいと、頭のてっぺんに両手で花を作る。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加