エピソードⅠ 殺し屋と豚汁

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な、なんだ?! いったいどういうことだ? オレは、この状況を冷静に考えた。 つまりは、ケガをしたオレは、この母親に拾われ、家に連れて来られて、ケガの手当てをされ、この家族の朝食の真ん中にいるのだ。 しかも、朝食は、朝からオレの大好きな豚汁だ。 オレの腹が、ぐ~っと鳴った。 「あら、あんたも、お腹が空いてるね。豚汁、食べな」 そう、母親は言うと、オレに豚汁を差し出した。 オレは、昨日から、何も食べていなかった。 思わず、豚汁を受け取った。 「さあ、お代わりもあるよ。たんと、食べな」 母親は、微笑んで言った。 オレは、豚汁を、むざぼり食った。 その様子を、母親は、優しい笑顔で見ていた。 オレは、母親を知らない。 母親というものは、こういうものか……。 他の家族と一緒に、豚汁を食べながら思った。 すると、何だか、豚汁を食いながら、泣けてきた。 あたたかい、にぎやかな家族。 そして、大らかで優しい母親。 大好きな豚汁。 オレの望んだ幸せが、すべてあった。 しかし、オレは……。
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