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エピソードⅠ 殺し屋と豚汁
いい匂いがする……。
この匂いは、オレが一番好きな匂いだ。
小さな頃、施設のバザー会で、出された豚汁……。
唯一の楽しい思い出だ。
豚汁……。
食いたい……。
と、思って目覚めたオレの頭に、いきなり、豚汁が降って来た。
「んぎゃー! ごめんよ! 手が滑っちまったー!」
そう、叫んでいるのは、若い女だった。
若いといっても、もう二十代は半ばを過ぎているだろう。
化粧っ気のない顔だったが、目の大きな、活発そうな女だった。
オレは、豚汁のお椀を、頭に被ったまま、訳が分からず、訊いた。
「えっ? あんたは誰だ? それに、ここはどこだ?」
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