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「ごめん……私、気ぃ遣わせちゃってるよね……」
手を洗いながら、ぽつりと希が言った。
「何言ってんのさ」
「だって……」
「……ねぇ、マロンが死んじゃったときのこと覚えてる?」
マロンは私が幼稚園児の頃から飼っていたラブラドールの名前だ。大好きだったマロンが年老いて亡くなってしまった日、私は一晩中泣きじゃくり数ヶ月は落ち込んだ。
どうしてもマロンのことを忘れられず、家族からも「いつまでも泣いてばかりじゃ、マロンが悲しむ」と言われた。
そんな中、希だけがこう言ってくれたのだ。
「それだけ大切に想ってたってことでしょ。私も同じくらい夏美のこと大切だって想ってるよ」
「"いつまでも泣いていてもいいよ、私の前では"って、希は私にそう言ってくれたんだよ」
悲しいという気持ちをうまく飲み込めずにいた私に寄り添い続けてくれたのは、親友である希だった。
あの時、掛けてくれたその言葉に何度助けられたことか。
希は堪えきれず声を上げて泣き始め、私はただ黙って彼女をぎゅっと抱きしめた。
私に何かできれば、ただその一心だった。
その日の夜、夢をみた。
希は私の両手を握って、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「あのね、優斗くんが今度映画にでるんだ」
ーーへぇ、よかったじゃん
「一緒に観に行こーね」
ーーいいけど、それってハッピーエンドなの?
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