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-11話
「小田桐さん、これお返しします」
車に乗り込んでから、運転席に座る小田桐さんに以前借りた入館証を手渡す。
すると掌をいきなりぎゅっと握られて、予期しない出来事に思わずどきりとする。
「このあと、もう少しだけ時間もらっても大丈夫か」
『えっ⁈ ちょっと、突然なに? ……変なコトしないでよね』
途端に車内のルームランプがちかちかと点滅し始めて、小田桐さんが呆れ返ったような表情で眉を上げると掴んでいた手をパッと放した。
「違ぇよ、安西さんの会見」
「あ、行きたいです!」
『動揺させないでよ、取り乱しちゃったじゃん』
車は静かに滑るように夜道を駆けていく。
私はこっそりと運転する小田桐さんの横顔を盗み見た。
男達に殴られて唇の端に血が滲んでいる。
「傷、痛みませんか」
「いや、平気」
「病院とか……寄ってからのほうが」
「たいしたことないよ」
赤信号で車が停まり、ステアリング握ったまま小田桐さんがちらりとこちらを見る。
「……笑うと唇痛むから、あんま笑わせないで」
「笑わせてないじゃないですか」
唇尖らせて正面に向き直る私を見て、小田桐さんが笑いながら「いたた……」と呟いた。
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