-12話

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 ひとつ深呼吸して、ドアノブをひねる。  部屋の外で待ち構えていた優斗くんが溢れるような笑顔を向けてきた。 『おはよう』 「おはよう」  ぺこりと互いに小さく会釈をして顔を見合わすと、何となく照れ笑いを浮かべる。 『ついに最後だね』 「そうだね」  いざ優斗くんを目の前にすると、つい声をあげて泣いてみたいような衝動が押し寄せるけど、なんとか歯を食いしばって堪えた。  最後にするって決めたのは他でもない自分なのに、情けない。 『そんな顔しないでよ、俺まで泣きそうになるじゃん』 「泣かないよ……優斗くんを見送るまではって、決めてるから」 『ねぇねぇ、最後に一度だけハグしてみてもいい?』 「いいよ」  目の前に立つ優斗くんが、がばっと腕を回して抱き締めてくれるけど、やっぱり触れることは叶わなかった。  ゆっくりと目を開くと、彼の細い指先でピンキーリングがきらめいた。 『ほら、こういうのはさ、気持ちだから』 「いや、言い方」  堪えきれずに笑い出すと、腕を解いた優斗くんが私の顔を覗き込みながら同じように笑った。 「でも、ありがと」  私の言葉に優斗くんは、静かに首を横に振った。 『お礼を言うべきなのは俺の方だよ。心の底から感謝してる』  喪失感に苛まれる希の姿を、ただ隣で見ていることしか出来ない自分がもどかしかった。  幼い頃から一緒に育って、楽しい時も悲しい時も寄り添い続けてくれた彼女に、何か出来ることがあればという私の願いが届いたのだとしたら。  出会った時に優斗くんが言っていた『気持ちが重なるのを感じた』という表現も間違いではなかった気がしてくる。  きっと優斗くんも、自分の片割れでもある小田桐さんに同じような想いを抱いていたのだろうから。  スマホの着信音が突然鳴り響いて、画面には希の名前が表示されている。 「おはよう!」  電話の向こうから、底抜けに明るいお日さまのような声がした。
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