-最終話

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 ライブはまさに圧巻だった。  ステージの上でライトに照らされてパフォーマンスをする彼等の姿はついさっきまで一緒にいた面々とは思えないくらい、眩く光り輝いて見えた。  横に立つ希が顔を赤らめながら「すごい、マジでやばい……かっこよすぎる」と何度も呟くから、思わず笑ってしまった。  ダブルアンコールまで終わって、規制退場のアナウンスの声を聞きながら会場を見渡す。  広いドーム会場の中は、機材が置かれているスペース以外は殆ど満席で埋め尽くされていて、見回す限りどの人も満たされたような嬉しそうな顔をしていた。  「最高だったね」「カッコよかったね」と感想を言い合う声にまぎれて「優斗くんもそこにいるように感じられて、凄く感動した」と話す声が聞こえた。  あちこちから聞こえる会話のフレーズの端々に優斗くんの名前が聞き取れるけど、どの声も弾んでいて幸せそうだった。 「あ、うちらのブロックも呼ばれたよ」 「忘れ物はない?」 「大丈夫だよ。かなり最後の方になっちゃったね」  会場を抜け出して外に出ると辺りはすっかり暗くなって、高層ビルの群れの明かりがやけに眩しく見える。  目の前にはタクシーに乗り込む人や、バスを待つ列に並ぶ人の姿があった。 「……帰ろっか」 「うん」 「あのさ、ちょっとだけ遠回りして帰らない?」  タクシー待ちの列を指差して何か言い掛けていた希がこちらを見る。 「これまでのこと、聞いてほしいんだ」 「うん……聞かせてよ」  希は穏やかに凪いだような表情を浮かべ、片方の肩に下げていたバッグを斜め掛けに持ち替えた。  駅へと続く敷地内の長い散歩道へ向かって並んで歩き出す。  もう時間も時間だから、同じ道を歩く人影は疎だった。  優斗くん、声には出さず一度だけその名前を呼んでみた。  あの場に居合わせた大勢の人がきっと温かな気持ちで彼のことを思い出したはず。  もう、ずっと遠くへと行ってしまったに違いない。  けど、きっと私はこの先、何度も思い出すよ。  希が楽しそうに笑うとき。  眠りに着く前に部屋の椅子を見るとき。  テレビの画面に小田桐さんを見つけたとき。  その度に、あの人懐っこくて温かな彼のすべてに照らされてるような気持ちになると思う。 「優斗くんね、一番最初に小田桐さんのところに行ったんだって。何しても気付いてくれなくて寂しかったけど一晩中ずっと隣を離れなかったって言ってたよ」  希は、あの日、教室の机に両手をついてきらきらとした瞳で言ったときと同じ目をしてた。  私には、彼女がこれからいう言葉が手に取るようにわかった。 「 なにそれ、マジで尊いんだけど! 」 END.
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