第2章 傷ついたきみを甘やかしたい

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「ご入社おめでとうございます」 「あ、ありがとうございます」  はじめて交わした会話はそれ。  彼女が浮かべた笑顔があまりに美しくて、思わず見とれた。  うわ、どの部に所属しているんだ、この人。  けれど、残念なことに、首から下げた社員証が裏返っていて名前がわからない。  かといって、まさか入社式の受付でナンパするわけにもいかず。  その場は諦めて、俺は会場に入っていった。  だが、なんとその後の新入社員懇親会の司会が彼女だったのだ。  艶やかな黒髪をゆるやかに束ね、凛とした立ち姿でマイクを手にする奈月に、俺の目は釘付けになった。  純粋なものだけで、できているような……  取り繕ったものじゃない、生来の美しさをそなえている。  そんな彼女から目が離せなくなって、完璧に恋に堕ちた。    実は、俺にとって、この就職は不本意なものだった。
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