プロローグ 過ちの夜

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プロローグ 過ちの夜

【3月4日、午後11時】 「……あっ」  彼がわたしのなかに入ってきたとき、キツく結んでいた唇が解けた。 「声……聞かせてよ」  吐息まじりの淫らな声でささやかれ、身体に震えが走る。  都内のラグジュアリーホテルの一室。  カーテンを閉める間もなく、彼に組み敷かれて……    欲望を(はら)んだ視線から逃れるため、わたしは顔をそむけた。  目に入ってきたのは、非現実的なほど巨大な、赤く光る東京タワー。  彼はわたしの顎に指を添え、自分のほうに向けた。 「こっち向いて……感じてる顔見せて……」  切なげに眉を寄せた島内(しまうち)さんの顔は、普段とまるで別人。  前髪が乱れて額にかかっているところも。  その隙間から覗く瞳が、欲情で潤んでいるところも。  変わらないのは、見とれてしまうほど精悍で整ったその容貌だけ。  
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