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「あー。ちこくするー!」
珍しく寝坊した僕は、なんだかうきうきして走っている。だって、ベタな青春マンガなら、このあとヒロインとばったり会って、あんなことやこんなことが始まるんだから。あの角を曲がれば――。
と、角を曲がったら、頭頂部になにか軽くあたった。見上げれば、石塀から伸びた枝に柿や栗が実っている。きっと、あれらの一つが落ちてきたのだろう。女子高生も美少女も美猫もいなかった。パンをくわえてないせいかな、と後悔しながらももっと足を早める。
「おい、待てよ!」
すぐうしろから呼びかけられた。曲がるときに人はいなかったのに。どういうことだろう……まぁ無視しておこう。変なおっさん声だもんな。
「だから待てって言ってるだろ!」
柿が目の前に走りでてきた。信じられない現象に、僕は立ち止まった。
「ここで会ったのもなにかの縁だ。俺を連れていけ」
「……え。なんで?」
「俺は走り書きができる走り柿だ。俺を連れてって損はな――おい、待てよ」
不審者ならぬ不審柿とは関わりたくなくて、僕はまた走りだす。
柿は僕と並走しだし、いろいろと自己能力の説明(僕が思念を柿に飛ばせば、走り書きができるらしい。本当か?)を続けながら、とうとう高校までついてきた。
「もうわかったから、学校では静かにしててよ」
しゃべりが止まらない柿をブレザーのポケットにつっこんで、教室へと急ぐ。
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