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教室にはいると同時に始業のチャイムが鳴った。
なんとか間に合ったけど、ため息がでてくる。ヒロインとの出会いはなくて、代わりに変な柿を連れてきてしまった。
ポケットをのぞくと柿と目が合って、あわててそらし、黒板を見つめる。
すでに数学教師が、黒板に黄色いチョークで公式を書きだしている。
と、柿が机に飛び乗ってきた。
「授業中だから戻ってよ」
とっさに、両手で柿を隠し、小声で注意した。
「わかってる。だからこそ、俺が役立つんだろ。俺を握りながらあの黒板の文字を俺に念じてみろ。そのまま俺がノートに書いてやるよ」
信じられないまま、僕はノートを広げて柿を手にし、サイン、コサイン、タンジェントと念じてみる。
すると、すらすらと柿が勝手にノートにペンで書きだした。僕は先生の授業を聞いて、黒板を見るだけでよかった。
とても便利なしろものを手にいれたな、と顔がゆるんでしかたない。
どういう仕組みかわからないけど、色も念じたとおりに変えて書いてくれている。
「……あのさ。白いノートに黄色い文字だと読みにくいんだけど。わかりやすいように青や緑に変えられないの?」
数学の授業が終わりに近づいたころ。ようやく、ノートが見づらいことに気づいた。
「念じたとおりに俺はやっただけだぞ。しっかり書いてやったんだから、ほめてくれてもいいだろ」
僕は言い返せずに、次の授業にしっかり伝えようとおもい直した。
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