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第2回お見合いマストス・キンケア
後日、正式にマズワン・タメシーニとのお見合いは破談となった。
だが名家の長男にはまた次の見合いが用意されていた。
お相手は商家の一人娘マストス・キンケア(25歳)
いち商人でしか無かったが、貴族相手の化粧品開発に成功!
マストス家は一気に財を築き、上流階級との交流に成功する。
キンケアも自身を広告塔にするなど事業を積極的にサポートした。
だが、父娘共にまだまだマストス家の更なる発展を目論んでいる。
キンケアは使用人のモブタ(男:17歳)を引き連れて、タブラリ宮廷のお茶室の前まで来た。
「ふー・・・」
「どうしましたお嬢様?やはり緊張しています?」
「あ、ああ・・・正直あの顔だからな」
キンケアはドラミング共和国民なのでクイサーブの顔は知っている。正直全く好みでは無い。
しかし、もうこれ以上財を築いてもマストス家の地位は向上しない。
やはり家柄なのだ、タブラリゴ家なら申し分ない。
「私はあの顔も受け入れる、そしてマストス家を子孫永代に至るまで繁栄させるのだ」
女心というより野心と利得、キンケアはそういう女性であった。
「私が女で良かった、私は女である事も武器として夢をかなえる。どうせ産むならタブラリゴの名前の元で生まれ育った方が得と言うものだ」
そう言って、力強く踏み出しお茶室に入室した。
「よくぞこられたミス・キンケア。我がタブラリゴ家長男にして次期当主のクイサーブである」
「お眼にかかれて光栄でございます。マストス家が一人娘キンケアでございます。本日はクイサーブと共に過ごせることをとても楽しみにして参りました」
「うむ」
そう言ってクイサーブは手を伸ばし握手を求めた。
「うおわっ!!」
クイサーブのびっちり体毛で覆われた右手を見てキンケアは思わず悲鳴を上げてしまった。
「どうされた?」
「い、いえ・・・」
顔面の悪さは我慢出来る。しかし肌はダメだ!
お肌の手入れは顔だけではない、腕や足も毎日入念に行っている。
自身がマストス家化粧品の広告なのだというプライドがキンケアにある。
あんな毛むくじゃらの手に触れたくない。
いや!落ち着け私!掌には毛は無い筈!
「どうされた?ミス・キンケア?」
「いや・・・あの・・・」
躊躇う言い訳が思いつかない!行け!行くんだ私!
ガシ!クイサーブとがっちり握手したキンケア。
良かった!さすがの掌にまで毛は生えていなかった。
「ふー・・・」
「何の溜息かな?」
「い、いえ!そ、その私の様な町娘がクイサーブ様のお手に触れるなどと緊張してしまって・・・」
「うむうむ、うぶで良いぞ。しかし夫婦になれば体を重ねるのだ。手くらいで緊張していては、今後が大変であるな」
「おほほ、そうでござい・・・え?体?重ねる?私が?」
「そうであろう」
え?どゆこと?この全身スベスベボディの私が、あの全身体毛男と?
そうだよね・・・うん・・・でも全然そんな事考えていなかった・・・どうしよう。
「見たところ美しい肌であるな、我が腕の中に包み込まれる日が待ち遠しいな」
いや、挨拶の次にする話がそれかよ!見た目だけでなく内面も無理に思えてきた。
いつの間にか汗が滴り落ちるキンケア。
「そうだ、デモンストレーションというやつだ。さあ我が胸に飛び込んで来い!」
「へ?」
「さあ!」
「いや・・・あの・・・」
「さあ!」
「だから・・・その・・・」
「さあ!!!」
「いやあああああーーーー!!」
キンケアは扉を突進で破壊してそのまま突き進み、敷地の外まで走り去った。
後日、この縁談も破談となった。
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