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死の覚悟も上回る③
「ひ・・・貧乳・・・ですか・・・」
「うむ、我の以前の婚約者は小柄なのに凄く巨乳であってな。まあ一度も触るどころか見る事すら叶わなくてな、どうしても未練があるのだ」
(じょ、女性の胸を侮辱した上に昔の女と比較し始めるとは・・・!)
ピキピキ!レンカの額の血管が増える。
「姫様」
セバスチャンが声を掛ける。
「分かってるセバス、大丈夫だ。これくらいの侮辱は受け止める」
「ん?どうかしたか?」
全く気付かないクイサーブ。
この男、悪意はない。性格が良い評判もあながち嘘ではない。
夫婦になるならば全ての胸の内を言おうと思っただけである。
しかし・・・"悪意が無い発言"というのは時に凶器となる。
クイサーブは知識豊富な男だが、女心とデリカシーの理解は皆無であった。
「んー・・・それに姫と言うから期待していたのだが、何とも貧しい身なりだな。縁談なのだからもう少しめかしこんで欲しかったかな」
これまた悪意は無い、姫なのに貧困なんて発想が無いのだ。
「こ・・・これは貧しいなりに私の側近たちが見繕って・・・くれた物です。思いが籠っているのです」
血管が浮かび上がる音がピクピクからブチブチに変わる。
顔面の温度も上昇してきたレンカ。
「姫様!」
「大丈夫だ!」
レンカとセバスチャンのやり取りを全く気にせず言葉を続けるクイサーブ。
「それにレンカ姫よ、旅のお供に老人とはいかがなものか。お年寄りは大事にせねばならん。思いやりが無いのではないか、年寄りは無理してはいかん」
これまた高齢者を労わっているつもりなのだ。
「セ・・・セ・・・セバスチャンは、確かに高齢ですが側近の中でも1番の達人・・・でございます!私が・・・もっとも信頼している・・・ものでありまして・・・ですね、コラ」
ギリギリと怒りを食いしばって堪えながら話すレンカ。
「姫様!!」
「う、うん、少し深呼吸をして落ち着こう」
「ん?」
クイサーブは全く状況が分かっていない。話も止まらない。
「んー、しかも化粧もしておらんではないか。見合いに掛ける意気込みを感じないぞ」
「ハ、ハシーノからここまでは長い旅でした。食料を維持するのにも精一杯でして・・・そこまでの余裕は・・・このボンボンが!」
「ん?」
「姫様!!」
「スー、ハー、スー、ハー!」
「まあよい、齢も15と若い、胸もこれから育つかもしれん。至らない部分が多いのは、育ちに問題があったかもしれんな」
「・・・なんだと?」
絶対に言ってはいけない一言を言ってしまった。
レンカの怒りの血管は全て引っ込んだ、声も落ち着いている。
だがそれは決して怒りが収まったからではない。
「そこまで貧乳とは、栄養をとっておらんのだな」
「私の国は飢饉続きで皆、食うや食わずの生活をしているのです」
熱い怒りから冷めた怒りに変わった事で、活舌は流暢になっている。
「なんと!今時、飢饉が起こる国があるとは!よほど国策の取れていない国と見える」
「皆、一生懸命それぞれの勤めを果たしております、それでもままならない事はあるのです」
「うーむ・・・」
34年間金銭的な苦労をした事が無いのでピンとこない。
レンカの冷徹な蓄積されて怒りは限界間近だった。
「ハシーノ国は小国、色々と足りぬのであろう。我が妻となりドラミング共和国の最先端技術と知識を身に着けるがよい。そうすれば・・・ぶへっ!」
レンカの拳はクイサーブの大きな鼻頭を捉えていた。
「・・・私は両親にも側近にも恵まれて育った。それを侮辱する事は許さん」
地面にへたりこむクイサーブ。なぜ殴られたのか分からない。
「セバス、すまん」
「いえ、お見事でした」
「国民たちに申し訳ない・・・」
「今は悔やんでいる時ではありません、早く戻りましょう」
「うむ」
レンカとセバスチャンは去っていった。
鼻頭を押さえたままクイサーブは呆然としていた。
その一連の様子をクイサーブの母ことタブラリゴ・ガーブーはただ静かに見守っていた。
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