5.決断

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桜に聞かれて困ることもないが、なんとなくフロアの外に出てから電話を取った。 「はい、山脇の秘書の服部ですが」 「・・藤澤だ」 「何か・・山脇にご用件でも?」 「いや、特には。そういえば、風の噂で聞いたよ。山脇、どこかの専務と結婚したんだって?」 「ええ、ご存じでしたか」 「お前も・・振られたか」 「えっ」 「もしかして俺が強引に別れさせたから、その専務に取られたんじゃないかと思って」 「いえ、そんなことは」 もしかして、謝罪の電話だろうか。 それとも、何か桜に取り次いでほしいことでもあるのだろうか。 「今度、振られた者同士で飲まないか?」 「・・そうですね」 「じゃあ、そのうちに。・・・・悪かった」 そう言うと、藤澤は電話を切った。 振られた者同士・・か。まいったな。 俺が『どこかの専務』だと知ったら、藤澤はどんな反応をするんだろうか。 さすがに・・怒るかな。 整髪料の付いていない髪をかき上げ、ふぅっとため息をついた。 廊下のガラス窓に映った自分を見る。 サラリとクシを通しただけの髪。 メガネの無いコンタクトレンズの顔。 光沢を抑えたスーツスタイル・・もちろんベストは無し。 白いシャツにダークな色のネクタイ。 元は同じ『俺』なんだけどな。 これじゃ俺が『専務』だとは誰も気づかないか。 今日初めて『秘書』の俺と会う西川の反応が楽しみだった。
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