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後部座席のドアを開け、社長を車内に収めた後、俺は素早く運転席に向かった。
乗り込んで後ろを向くと、いつも通り、いくつも重ねたクッションにもたれている。
「社長、お水を」
ペットボトルのキャップを緩めて渡すと、辛そうに身体を起こし、一気に半分以上を喉に送り込む。
「服部、私、今日も頑張ったよ・・。付け入る隙も見せなかった」
「分かっています。吐き気はありませんか? かなり量を飲んだのでは?」
「・・大丈夫。量より、今夜はアルコール度数が高かった・・」
「後で、漢方を飲みましょう。社長・・その・・触れられたりしませんでしたか?」
「・・髪の先に少し・・指が・・」
あいつ・・。
社長に触れたのか。
「ねぇ服部」
「はい」
「・・キスして」
「えっ?」
社長、いま何て・・。
戸惑って視線を外している間に、後部座席からスゥスゥと小さな寝息が聞こえてきた。
「そんな・・寝ちゃうのかよ」
思わず気持ちが声に出てしまう。
社長にキスをねだられたのは初めてのことで、本気かどうか、確かめることはできなかった。
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