1.接近

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後部座席のドアを開け、社長を車内に収めた後、俺は素早く運転席に向かった。 乗り込んで後ろを向くと、いつも通り、いくつも重ねたクッションにもたれている。 「社長、お水を」 ペットボトルのキャップを緩めて渡すと、辛そうに身体を起こし、一気に半分以上を喉に送り込む。 「服部、私、今日も頑張ったよ・・。付け入る隙も見せなかった」 「分かっています。吐き気はありませんか? かなり量を飲んだのでは?」 「・・大丈夫。量より、今夜はアルコール度数が高かった・・」 「後で、漢方を飲みましょう。社長・・その・・触れられたりしませんでしたか?」 「・・髪の先に少し・・指が・・」 あいつ・・。 社長に触れたのか。 「ねぇ服部」 「はい」 「・・キスして」 「えっ?」 社長、いま何て・・。 戸惑って視線を外している間に、後部座席からスゥスゥと小さな寝息が聞こえてきた。 「そんな・・寝ちゃうのかよ」 思わず気持ちが声に出てしまう。 社長にキスをねだられたのは初めてのことで、本気かどうか、確かめることはできなかった。
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