1284人が本棚に入れています
本棚に追加
社長夫人・・つまり桜さんの母親は、桜さんが大学生の時に病気で亡くなった。
そして今回、社長が・・。
「服部、顧問弁護士を呼んでくれる?」
旅立った社長の横で、泣きわめくわけでもなく、桜さんは静かにそう言った。
ほんの少し前まで、俺を『服部さん』と呼んでいた桜さんは、もう、覚悟を決めたようだった。
「承知しました。ご自宅へお呼びして構わないでしょうか?」
「そうね・・父を連れて帰るし、今夜は自宅に来ていただけるよう、お伝えして」
「はい」
俺は会社関係の手続きを進め、桜さんは社長個人の手続きに追われた。
喪主も立派に努め、告別式やその後の関係者との挨拶も全て終えたタイミングで、俺は桜さんを自宅に送り届けた。
「桜さん、着きました」
「うん・・」
後部座席から遠くを眺めていた桜さんは、車を降りる気配がない。
もしかして・・。
降りる気力がないんだろうか。
俺ですら、少しだけ緊張の糸が緩んだような気がしている今、桜さんは・・。
俺は運転席を出て、後部ドアを開けた。
「桜さん」
「な・・に?」
「失礼します」
『きゃっ』という小さい悲鳴を上げた桜さんは、真っ赤な顔で俺に抱え上げられた。
最初のコメントを投稿しよう!