1.接近

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社長夫人・・つまり桜さんの母親は、桜さんが大学生の時に病気で亡くなった。 そして今回、社長が・・。 「服部、顧問弁護士を呼んでくれる?」 旅立った社長の横で、泣きわめくわけでもなく、桜さんは静かにそう言った。 ほんの少し前まで、俺を『服部さん』と呼んでいた桜さんは、もう、覚悟を決めたようだった。 「承知しました。ご自宅へお呼びして構わないでしょうか?」 「そうね・・父を連れて帰るし、今夜は自宅に来ていただけるよう、お伝えして」 「はい」 俺は会社関係の手続きを進め、桜さんは社長個人の手続きに追われた。 喪主も立派に努め、告別式やその後の関係者との挨拶も全て終えたタイミングで、俺は桜さんを自宅に送り届けた。 「桜さん、着きました」 「うん・・」 後部座席から遠くを眺めていた桜さんは、車を降りる気配がない。 もしかして・・。 降りる気力がないんだろうか。 俺ですら、少しだけ緊張の糸が緩んだような気がしている今、桜さんは・・。 俺は運転席を出て、後部ドアを開けた。 「桜さん」 「な・・に?」 「失礼します」 『きゃっ』という小さい悲鳴を上げた桜さんは、真っ赤な顔で俺に抱え上げられた。
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