青春

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「じゃあ、今日は帰るね。私の友達になって欲しいこと、忘れないでね」 「う、うん」 「じゃあね」  彼女は踵を返して、歩いて行った。私は彼女の「じゃあね」の言葉に返事をすることができなかった。突然訪れた嵐は突然に、静かに去っていった。私はしばらくそこで一人立ち尽くした。この嵐が去った時、私にはそうすることしかできなかった。この瞬間から心の中の何かが崩れ始める音が少しずつ、少しずつ響き始めた。ようやく動けるようになった頃にはもう日が暮れて、窓の外から見える街灯の光が道を照らし始めていた。私は家に帰らなくてはいけないことをこのタイミングで思い出す。駐輪場に向かって歩き始める。暗い暗い廊下を進むと、再び広場に出た。そこには電飾が綺麗に点灯したクリスマスツリーがあった。この時の私にはなんて場違いな物なのだろうかと思えた。そう思えたが、綺麗に光っているものだから、心が少しだけ元気になれた気がした。駐輪場に出た私は自転車に乗った。街灯に照らされた薄暗い道を一人で進んでいく。他のみんなはまだ部活を続けている。一人の帰り道で考えた。倉持咲は何をしたいのだろうか? どうして、友美は彼女を遠ざけているのか? 考えてはみようと思ったが、この日はどうしても結論は出そうになかった。途中で考えるのを止めて無心になって家路を走った。普段見る景色が暗く澱んで見えたような気がした。  自転車を止めて、鍵をかける。階段を上がって家の玄関に着くと丁度お母さんも階段を上がってきた。 「あら、おかえり。早かったね」 「ただいま。今日は部活が無かったから」 「あらそう。じゃあ、さっきお菓子を買ってきたから食べない?」
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