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「食べる、食べる」
私は玄関の鍵を開けた。お母さんを先に通してから中に入った。家の中はとても暗かった。お母さんがすぐに明かりをつけたから、一瞬で暗闇は消えたが、この日の私にはどうしても、印象に残った。それから、私はこの日々に少しだけ亀裂が走ったことに気がついた。この亀裂は塞げるのだろうかと考えていると、母は私の中の少しの亀裂に気づいていたのか、わからないが、こう言った。
「何かあったでしょ?」
「え?」
「何かあったんでしょ? 学校で」
私はどう答えたらいいのかわからず、言葉が詰まった。別に自分の身に何かがあったわけではないのに。それなのに、夕方の倉持咲とのことが気にかかっていた。リビングの中に静寂が訪れ、お母さんは何食わぬ顔で私のことを見つめる。自分の子供が何かに悩んだりしている時。その親というのはやはり、子供の異変に気づいているものなのだろうか。そんなことは私にはわからないが、私のお母さんはどうやら気づいたようだった。
「やっぱり、何かあったね」
「そんなこと、ないよ!」
咄嗟に声を張り上げた。認めたくない。倉持咲が放つ異質な何かに心が揺れていることなど、この時の私は認めたくは、なかった。
「そんなこと、ないからさ…… 。ほら、お菓子食べようよ」
お母さんは、私の顔を一瞬だけじろっと見た。
「まあ、何も言いたくないなら、言いたくなったら、その時は言ってよね。約束だよ」
「う、うん」
「それじゃあ、お菓子を食べよう」
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