開幕

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「孔雀座は結局見れなかったな……」  彼女は残念そうにしながらも呑気な声で一言呟いた。咲がどうしてここまできたのかを私は知っていたが、この言葉に私は何も言えずにいる。なんて言えばいいのかが咄嗟に判断できなかった。一歩、一歩と進むと次第に崖の先の全てを飲み込むような荒波が下の方から私たちを覗き込んできた。私はこのまま助かるのだろうか。それとも彼女と共に死ぬのだろうか。日が沈み、近くにある灯台の灯りだけが私たちを照らしている。日が沈んだことで彼女の顔が見えなくなっていく。その暗闇の中で彼女はすすり泣いていた。彼女の涙をすする音が聞こえてくるのだ。  サイレンの音がさっきよりも近づいてきた。数分後にはこの辺りは警察官たちに囲まれているのだろう。咲は私と一緒に崖の下へと飛び降りようとするかもしれない。まもなく全てが終わろうとしている。太陽が沈んでいった海の遠くの水平線を眺めながら私は彼女との死を覚悟した。何台ものパトカーが遂に私たちの後ろまで到達し、取り囲んだ。私と彼女の周りは一瞬のうちに明るくなって、後ろに目を向けると彼女の覚悟決めた顔が見てとれた。パトカーの群れから大勢の警官が現れた。警官の一人が叫ぶ。 「警察です! こっちに来て話を聞いてください!」  咲はそれを聞くと、私の首元を掴んでから体を警官たちの方に向けた。それから私の体を自分の方へ近づけてナイフを首元に突きつけて、警官たちに向かって叫んだ。 「動かないで! 動いたらこの子を殺す!」
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