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ジャックナイフ
私は顔に似合わず気性が荒い。
触った者を傷つけるジャックナイフの様な性格だった。
「誰だよ!お前!」
今日も駅前で風船を持った着ぐるみの子猫ちゃんが私の餌食になっている。
「黙ってんじゃねえよ!いてこますぞ!この野郎‼」
真面目そうな見た目と幼い容姿に誰もが騙されるが私は俗にいうレールから外れた人間だ。
生きる為だったら汚い事でも躊躇わずやってきた。
「そんな可愛い顔したって駄目だぞ!お上が許したって私が許さねぇ!」
俗にいう孤児というやつで、身寄りも居ない。
迷惑をかける人間もいないので遠慮はいらなかった。
「黙ってないで何とか言えよ!この野郎!」
しかし子猫ちゃんはオドオドするばかりで何も言わない。
私は飽きてきたので帰ろうとした。
「あのぉ~」
すると80代くらいの婆さんが声を掛けてきた。誰も私には近づいてこないのに、これは珍しい体験だった。
「何だよ‼お前!」
しかし、お年寄りだろうと私は容赦しない。
持てる限りの難癖をつける。ドスの効いた迫力は無いが女の子のキンキンとした叫び声は周りの人間をビビらせるには効果的だ。
「駅に行きたいのですが道に迷ってしまって…」
しかし婆さんは私にビビっている様子は見られなかった。
「馬鹿じゃねぇの…直ぐそこだろ!目ん玉付いてんのか⁈」
「す、すみません…」
ようやく婆さんがビビり始めた。私は残酷だ。
どんな弱い人間だって容赦はしない。
婆さんは私の強い態度に道を聞くことを諦めた様だ。
「これから訳があって駅に行かなきゃな~駅はこっちだったよなぁ~」
私は意味も無く婆さんに聞こえる様に声を張り上げた。
何故か私の後を婆さんが付いてくるがそんな事に構ってはいられなかった。
「あ~あ、ここを曲がれば良いんだっけなぁ~」
私が不自然に声を張り上げるものだから周りの連中が見てくるがそんな事はどうでもいい。
「あっ!ここは滑りそうだから気をつけなきゃな‼」
私は普段なら言わない事を声を張り上げて口にした。
「駅まであと300メートルくらいだからゆっくり行こうかなぁ~」
私の一人芝居は続き駅に到着した。しかし私は自分の用が何だったのか、すっかり忘れてしまった。
用が無くなったのでそのまま帰る事にした。
「ありがとうございました」
何を勘違いしたのか婆さんは私に深々とお辞儀をした。
「な、何を言ってやがる!私は用があって駅に来ただけだ!」
婆さんは私の言葉も聞かずニコニコしながらその場を去って行った。
私の言い訳は空しくこだました。
「ちっ…勘違いしてんじゃねえよ!」
『おまえに関わると碌な事にはならない』それは幼い頃から私が言われ続けてきた大人たちの言葉だった。
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