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墓参り
あの後、私たちは八千枝さんの墓参りを終えると札幌を後にした。
電車の中での婆さんは表情も強張り元気が無かった。
しかし私は婆さんの生きる希望が少しは見つかったと思っている。
札幌に行った事は無駄では無かったと思いたかった。
東京に着くと私たちはすぐさま息子さんの墓参りに向かった。
郊外の霊園に遺骨は埋葬されていた。
その墓は定期的に訪れているのか手入れが行き届いている。
婆さんは何も言わずに涙を流しながら墓前を拝んでいた。
晩年になると年を重ねるごとに大切なものが一つずつ失われていく。
年を取るというのは何て過酷なものなのだろう。
私は婆さんを憐れんでいたが、失うばかりではなく得るものもあると伝えたかった。
「婆さん…あんたこれからどうするんだい?」
「老人ホームに戻ります…もう思い残すことはありません」
「後悔はないのかい?」
「ええ…貴女に出逢えて本当に良かったです。こんなに親切な人っているんですね。お迎え前に神様がご褒美をくれたのかしら…」
「辛気臭い事を言ってんじゃねえよ!」
婆さんは感謝しているようだが、その覚えは私には無い。
私は自分のしたい事を勝手にしただけだ。
そしてこれからも自分の思った信念に向かって突き進む。
「あのなぁ…前に話した通り私は孤児だ。幼い頃までは施設で暮らしていたが逃げ出して今はこの通りだ」
「普通の人間では想像できないくらい酷い人生を送ってきたし、悪い事にも手を染めてきた」
「それでも私は生きてきたし、今は住むところだってちゃんとある」
「何かの縁だ…家に来ないか?」
「なんで⁈赤の他人ですよ‼」
「何かなぁ~同じ独りぼっちでほっとけねぇんだよ」
私の言葉を最後に婆さんは口を噤んだ。何を言ったところで最後に決断するのは婆さんだ。
婆さんの選択に任せる他は無い。
「よう!やっと見つけたぜ!」
そんな時、背後から声がした。モヒカンに革ジャン姿の男は木島だった。
私を探して霊園までやってくるとは何ともしつこい奴だ。
「無粋な奴だな…こんなところまで来てんじゃねぇよ!」
「借りを返して貰いに来たんだ!」
「チッ!わかったよ…ほらよ」
私は木島に札束を放り投げた。
「おっ!まいどあり~」
木島は金を受け取るとそそくさと、その場を後にした。
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