3人が本棚に入れています
本棚に追加
安らぎ
都内の高層マンションの上層階に私の住まいはあった。
「婆さん、今から出かけてくるからな!」
「はいはい…今日も遅いんですか?」
「ああ…」
結局、婆さんは私の元で暮らすことになった。
老人ホームとの話し合いが困難になるかと思われたが、南のサポートもあって円滑に話はまとまった。
「八重子さん、今日も遅くなるんですか?」
南は婆さんの面倒を見て貰うのと、人手が欲しかったのも重なって老人ホームは辞めて貰い私が雇用した。
「あのなぁ~南、生きてくって事は大変なんだよ」
「でも八重子さんが幼くしてベンチャー企業の経営者だったなんて驚きです…」
「年なんて関係ねぇよ!まあ大変だったけどな…」
「はいはい…わかってますって」
南は早く話を切り上げようとしている。これから私の苦労話が語られるはずだったのに。
「チッ!私は行くからな!」
「あっ!婆さん今晩もあれ作っておいて!」
「えっ…な、何のことでしょう?」
また始まった。婆さんは都合が悪くなると急にボケる。
最近では私を揶揄う時にも都合よくボケ始めていた。
本当か嘘なのかは婆さんにしかわからない。
付き合うと長くなってしまうが婆さんとの絡みは嫌ではなかった。
「あれだよ!あれ!」
「えーっ?何ですかー?」
「だからあれだって!」
癇癪を起こした様に駄々をこねる私を見て婆さんは笑った。
「ははははは…里芋の煮っころがしね」
「そう!それ!」
生きる為にと強がって、気の抜けない日々を送っていた。
私の人生はいつの間にか、つかの間の安らぎを感じる事ができるようになった。
最初のコメントを投稿しよう!