安らぎ

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安らぎ

 都内の高層マンションの上層階に私の住まいはあった。 「婆さん、今から出かけてくるからな!」 「はいはい…今日も遅いんですか?」 「ああ…」  結局、婆さんは私の元で暮らすことになった。  老人ホームとの話し合いが困難になるかと思われたが、南のサポートもあって円滑に話はまとまった。 「八重子さん、今日も遅くなるんですか?」  南は婆さんの面倒を見て貰うのと、人手が欲しかったのも重なって老人ホームは辞めて貰い私が雇用した。 「あのなぁ~南、生きてくって事は大変なんだよ」 「でも八重子さんが幼くしてベンチャー企業の経営者だったなんて驚きです…」 「年なんて関係ねぇよ!まあ大変だったけどな…」 「はいはい…わかってますって」  南は早く話を切り上げようとしている。これから私の苦労話が語られるはずだったのに。 「チッ!私は行くからな!」 「あっ!婆さん今晩もあれ作っておいて!」 「えっ…な、何のことでしょう?」  また始まった。婆さんは都合が悪くなると急にボケる。  最近では私を揶揄う時にも都合よくボケ始めていた。  本当か嘘なのかは婆さんにしかわからない。  付き合うと長くなってしまうが婆さんとの絡みは嫌ではなかった。 「あれだよ!あれ!」 「えーっ?何ですかー?」 「だからあれだって!」  癇癪を起こした様に駄々をこねる私を見て婆さんは笑った。 「ははははは…里芋の煮っころがしね」 「そう!それ!」  生きる為にと強がって、気の抜けない日々を送っていた。  私の人生はいつの間にか、つかの間の安らぎを感じる事ができるようになった。
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