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本当に痴呆症
南が降りてから電車は何事も無く終点の函館を目指していた。
「婆さん、もうすぐ函館だ…そこで乗り換えだぞ」
「えっ、もう函館ですか?」
婆さんの口ぶりは、まるでこの長旅を楽しんでいるかのようだった。
にこやかな笑顔で私の話に応えている。
「あの、すみません」
そんな時、この電車の車掌が険しい顔で私たちの所にやってきた。
「貴女がこのお婆さんを老人ホームから連れ出したのではないかと通報があったのですが」
「チッ!」
私はすぐさま、あどけないフリをした。
「え~っ、何の話しかな~?」
通報したのは南ではない。きっと南と私の話を聞いて先に降りた他の乗客だろう。
「私はお婆ちゃんと一緒に札幌に行くんだよ」
虫唾が走る。私は普段は演じないキャラで精一杯に笑った。
「そうですか…」
車掌はやはり私の話には納得してない様子だ。
「お婆ちゃん、この娘は貴女のお孫さんで間違いありませんか⁈」
ヤバい。婆さんが私の話に合わせてくれるはずがない。
きっと嘘がバレてしまう。
「はい。間違いなく私の孫ですが。どなたがそんないい加減な事を?」
驚いたことに婆さんの受け答えはしっかりしていた。私の話にも合わせている。
本当にボケているのだろうか?
「私たちは旅行で札幌に行くんです!孫と二人で楽しみにしていた旅行なのに水を差すような真似は辞めて貰いたいわね!」
迫力のある婆さんを初めて見た。その迫力に車掌は圧倒されている。
「あっ!これは失礼いたしました」
車掌は逃げるように帰って行く。その様子を見て婆さんは何事も無かった様に笑っている。
私はその様子に呆気に取られていた。
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