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しかし、どんどん落ち込みそうになる私を鼻で笑った友人は、「いやいや、吉木春呼ってほんとに恋愛神だったんでしょ」と乾いた声で救い上げる。
「え、」
「みんなの恋愛を成就させてきたうえに、自分はうちの学校の王子様と結ばれちゃうんだから」
「そ、そーゆーもん?」
「そーゆーもんよ。みんなが春呼のところにいくのは春呼に期待したおまじないっていうよりも、一種の恒例行事みたいなもんだし」
荷物を詰め込み終えたリュックを背負い、制服の裾を整える。話したおかげでだいぶ心が軽くなったので重たいリュックも平気だった。そんな私をゆっくり眺めて、友人が急所を指摘する。
「意外と春呼ってさ、人から嫌われるのを恐れすぎてるよね」
「あーばれた?」
「きらわれたくないのは完全に同意だけど、最悪の場合きらわれてもいいやっていう心構えも生き抜くコツよ」
さすが四月生まれは大人だわ。ご教授いただいた私は「どーもね」と軽くあしらい、オージくんと待ち合わせた下駄箱に向かった。
辿り着いた下駄箱にはすでに長身の美少年が壁に寄りかかって立っていた。陽が落ちてきた校内で伏し目がちに佇むオージくんは美術品になる美しさだったのでしばらく見守っていたかったが、そうもいかない。
「春ちゃん!」
私を見つけて駆け寄ってくる姿はやっぱりデカい犬だった。背の高い彼は屈んで私に視線を合わせ、至近距離から窺ってくる。
「どうしたの?」
なんとなく自分の表情に翳かげりがあると自覚はしていた。でもそこには決定的な要因は無く、具体的に説明するのも難しい。
「どうとか、ないけど」
「そう? じゃあ、手ぇ繋ぐ?」
「いや、その場合の『じゃあ』って何よ」
「ふはは、春ちゃんっておもしろすぎ」
「どこが?!」
もちろん手と手は繋がず、私たちは校舎から出てきた。こうして二人で並んで歩くのは初めてだったので言い表せないむず痒い気持ちになる。
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