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くすぐったい気分を味わいながら、へえ、彼氏ができるってこういうかんじなんだーと冷静に思っていた。私はおめでたいことなのか分からなかったが、私と同様に当の本人であるオージくんは激しくおめでたがっていたので正しいに違いない。
反応が鈍い私を囃し立てても面白くないので、みんなの注目はオージくんに集められる。彼は輪の中心でご機嫌そうにはしゃいでいるので、まああなたが幸せならいいですけども、と天を仰いだ。
「オージくん、なんでそんなに嬉しそうなの」
「嬉しそうにしたっていいでしょ」
「うん、いいよ」
尋ね返されたので素直に頷くと、オージくんは天使の微笑みをさらに深めて目尻をゆるゆるに蕩けさせた。天使と仔犬から王子様が生まれてきたようだ。奇跡の子である。
青かった空がピンクがかった紫色のグラデーションに塗られ始め、そろそろ帰ろうかという空気が漂ってきた頃。みんな自分の席に戻り、オージくんも一旦自分のクラスに戻っていった。
鞄に教科書を雑に詰めて下校支度をしていると、隣の席の友人が私に声をかける。
「やっぱ恋愛神だね〜」
ずっと肺の奥でもやもやしていたそれを指摘され、私はもやもやごと吐き出すように深いため息をついた。
「そのことなんだけどさ、私、調子乗るのやめるよ」
「うん?」
「恋愛神を騙る資格がないもん。オージくんに告白したいって子が来たら、素直に応援できないし、これまでのことを色々考えるとあんまり良くないなーって気がするし」
成就を願うそぶりを見せていた、いや実際に願っていなかったわけではないのだが、そんなことが何度もあった人と自分がちゃっかり結ばれるのはあまりにも図々しいというか。後ろめたさは感じざるを得ない。
羽地央慈に告白すると決意した女の子たちの背中を私は何度も見送ってきたし、その子からいくつものお菓子やらジュースやらを受け取ってきた。
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