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高い位置にある横顔をちらり盗み見ると、整った顔はまっすぐこちらだけを向いていた。私みたいに不思議と浮き足立つ気分ではなさそうで、ただただ幸せそうにるんるんとスキップするような足取りである。これは犬の散歩だと思い込むことにした。
「オージくんってあんまり人から嫌われないよね」
「そ? 嫌われるときもあるよ」
「オージくんのこと嫌いな人、学校にいるかなあ」
「いるよ、いるいる! むしろ春ちゃんのほうがいないじゃん。さっき教室でも思ったけど、みーんな春ちゃんのこと好きだもん」
「オージくんって、人から嫌われるの怖くないの?」
「嫌われたくないけど、僕のことを嫌いな人に好きになってもらうのは難しいから諦めた。でも、僕が好きな人にはなるべく嫌われたくないなあ」
「私にも、嫌われたくない?」
「春ちゃんは特別だからぜーったい嫌われたくないけど、春ちゃんは誰のことも嫌いにならなそうっていう妙な安心感がある」
「なに、それ」
「春ちゃんって誰とでも同じ対応っていうか、みんなに平等じゃん。僕にもそうだから、好きになっちゃった」
思えば、動機を聞くのは初めてだ。こういうときは平然としているオージくんの傍で、私はぐわっと体温が上がり照れくさくなっていた。
耳を熱くする私をわらった彼は、にまにまと意地悪な笑みを浮かべながら覗き込んでくる。
「僕が一方的みたいだけど、ところで春ちゃんはどうなの? ねえ、どうなの?」
「かわいいとは思ってるよ」
「僕に嫌われたら悲しい?」
「うん、想像するだけで悲しいよ」
こんなに懐いてくれている可愛い犬に噛みつかれたら、私はひっそり泣くだろう。不愉快な想像を振り払って、わざとさっぱり言ってみた。
「でも、たまに愛が重いのは確か」
「うーん、重すぎ?」
「先に重たくしたのはオージくんだから責任を取るべきだな。減っていくのは恐ろしいから、ずっと重いままでいてほしい」
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