被るのよ!

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被るのよ!

「キャラが被るのよ!その髪型を変えなさいよ!」 目の前の女性はいったい何を言ってるのだろうか? 私は呆気に取られていた。 見ず知らずの女の子の第一声目に、そんな事を言われたのは初めてだった。 彼女は病んでいるのだろうか? それも人通りの激しい天下の往来での出来事だ。 私は何も聞こえないフリをした。 知り合いだと誤解されるのはまっぴらだった。 「大体服もピンクって何よ!まる被りじゃない!」 しかし彼女はめげることなく私に言い寄ってくる。 周りの注目がチラホラとこちらに集まりだした。 確かに髪型のツインテールとピンクの服装は被ってると言えば被っている。 しかし良く見ると髪型も服装も微妙に違っているので、まる被りとは言えない。 何より初対面の女の子が普通そんな指摘をしてくるものだろうか? もしかすると向こうは私の事を知っているのかも知れない。 「貴女、何を言ってるの?私たち初めて会ったのよね?」 「初めてよ!良く知らない人だわ!知らない人だからって注意しないわけにはいかないでしょ!」 この娘は触ってはいけない痛い子だった。 そうでなければ常識の分からない頭の弱い子だ。 私は逃げるようにその場を駆けだした。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」 一心不乱に逃げているのに彼女は追いかけてきた。 その執着心にはホラーを感じた。 ドレスに似たワンピースを纏っているのに、汗をほとばしらせながら追い続けてくる。 その衣服は激しい動きに乱れているのに追うのを止めはしなかった。 「待ちなさーい!待ちなさーい!」 ここまで追われる理由が私にはわからなかった。 もはや恐怖しか感じられない。 「待って~…待って~…」 そもそも彼女が私に追いつけるはずは無かった。 私は陸上部である。速度を上げて引き離し彼女を諦めさせようと試みる。 遥か後方の血相を変えた彼女の姿は次第に小さくなっていった。 「待って…ひぃひぃ…はぁはぁ…」 それでも彼女は追うのを諦めなかった。 苦しそうにも健気なその姿は可哀想とすら思わせている。 今にも泣きだしそうな、その表情はちょっとだけ可愛いなぁとも感じさせていた。 どうしてここまで私に付き纏うのだろうか? 私は彼女の真意が知りたくなっていた。 ゆっくりと立ち止まり彼女の到着を待つ。 彼女の様子はもう最初の原型を留めてはいなかった。 「どこまで追いかけてくるのよ」 「あ、あなたが…逃げるからよ…はぁはぁ…」 逃げるからと言って人をここまで追ってくる人間がいるだろうか? 猫でもあるまいし本能で追っていたというつもりなのか? 「私たち今日あそこで一瞬、会った赤の他人よね?なのにどうしてそこまで私に付き纏うの?」 「付き纏ってなんかないわ‼」 付き纏うが地雷だったのか彼女は怒りを見せた。 そして今までが何だったのかと思わせる程、あっけなく姿を消した。 私はポカーンとその場に立ちすくむしかなかった。
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