待宵草 二

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「高橋っ、声がでかいっ! お客さんがまだいるだろ!」  トラックの整備をしていた瀬田が怒鳴る。  我に返った高橋は、店から出てきた女性客と目が合ってしまった。彼女の目から悲しみと涙があふれてくるのを、高橋はまざまざと目の当たりにした。 (しまった……聞かれた!)  と後悔した時にはすでに遅かった。  女性客はくるりと身をひるがえし、自分の車へと走り去っていった。  呆然と見守る中、赤い軽自動車は勢いよく駐車場から飛び出していった。  高橋は頭を抱えた。  あの客はもうこないだろう。  朔が悪いのに、まるで自分が原因のようではないか。  瀬田は大きなため息をついたが、それ以上は何も言わなかった。  高橋が悪いわけではない。  朔の態度に大きな問題があるのは無論だが、それでも朔が一方的に悪いとも思えない。  男目当てに、交換しなくていいものを無理に交換しにくる女性客にも問題があるのだ。  どっぷりと後悔の念にひたっていた高橋は、手に握りしめているものを思い出した。すべての原因であるプレゼントだった。ピンクで可愛らしいからよけいに腹が立った。   朔が捨てようが受け取ろうが、もうどうでもよくなってきた。    捨てるなら休憩室のゴミ箱にしろと高橋がプレゼントを朔へ押しつけようとした時のこと。  朔は袖ポケットにさしていたドライバーを手に取った。    抜き取るやいなや、向かい合った高橋目がけて投じた。  鋭く、音もなく、まっすぐに、ドライバーは高橋の耳ぎりぎりのところをかすめるように飛ぶ。  ドライバーは衝突音を発しながら、工場の壁に突き刺さる。 「ぎゃぁっ!」  高橋は奇声を上げた。自分をかすめていった物をふり返り、それがドライバーだと認識すると、 「テメーなにすんだっ!」  と、朔の奇行に憤慨した。
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