序章 氷輪

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 長い年月、病院勤めをしている間に、重病に苦しむ患者を多く見てきた。それに比べ、今の患者の病は、現代医学で治療できる病だ。  居眠りをしていたと混乱するほど、診察結果がショックだったのだろうか。 「まさか、自殺なんてしないわよね……」   と、ひとりごちたが。  遠ざかっていく後ろ姿を見送りながら、ひとつため息を吐く。  取り越し苦労だという一言では不安が払拭しきれないほど、その患者が(くら)い目をしていたのが気がかりだった。
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