春を投げる

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一人で会場を出た私は、スタジアム脇の小さな川のほとりに向かった。川面に映ったオレンジ色が、焼けるようにまぶしい。 部活も恋も、今日で引退。さてこれからどうしようかなあと私が考えていると、下流にかかっている橋の上に見慣れた人影が見えた。あれは圭吾と、結ちゃんだ。二人は肩を並べて、ゆっくりと歩いている。 二人の姿を見た時、私は大学でも砲丸投げを続けようと突然思った。私は特別上手いわけでも、才能があるわけでもない。でも今の私ならもっと力強く、もっと遠くへ、あの4kgの球を飛ばせる自信があった。 私は橋から背を向けると、何も持っていない右手の掌を首もとに近づけた。目を閉じて、今日の砲丸投げの試合の感覚を思い出す。川から吹いた風が、私の髪の毛をくすぐった。右足をぐっと前に曲げて、左足に体重を移す。そのまま左足を伸ばして、後ろに2回、バックステップ。うん、いい感じ。 そして私は勢いよく、右手を夕焼け空に突き出した。いけ、いけと私は心の中で何度も呟く。私の右手から放たれた透明な球体は圭吾たちを軽く飛び越えて、どこまでもどこまでも、まっすぐに突き進んでいく。 その青春の軌跡を、私はいつまでも見つめていた。 (了)
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