春を投げる

2/9
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
私が結ちゃんに言うと、結ちゃんは「お願いします!」と張り切った声を出した。 私は砂の上で足を肩幅に開くと、球を持った右腕を折り曲げながら、首の位置まで持ちあげる。次に胸の前から左手を通して、球を両手で支える。4kgの球の重みが全身にかかるが、ふらつかないように地面を強く踏みしめる。 よしと心の中で呟くと、私は砂場に向かって右手を力いっぱい、下に突き出した。勢いよく放たれた鉄球が真っ逆さまに砂場に落ちて、地面からふわふわと砂ぼこりが上がった。「すごい!」という結ちゃんの歓声がグラウンド中に響く。 砲丸投げと聞くと野球のように「球を投げる」姿をイメージする人も多いが、実際は球を「押し出す」という感じに近い。 結ちゃんは私のもとに駆け寄ると、私の周りでぴょんぴょんと跳ねる。「結ちゃんは大げさだなあ」と私が頭をかくと、風に新緑がブレンドされたような爽やかな声が聞こえた。私のまつ毛がぴくりと震える。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!