春を投げる

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           ☆  六月。梅雨の晴れ間に恵まれて、関東大会の幕が開けた。空は快晴で、爽やかな風が私の体を通り抜ける。まずは競技に集中しないといけない。私は準備運動をしながら競技開始時間を待った。するとレース前の結ちゃんが、ユニフォーム姿で激励に来てくれた。 「お互い試合が重なっちゃったのが残念ですけど、走りながら初音先輩のこと応援しますね!」 そう申し訳なさそうに言ってくれる結ちゃんの気持ちがうれしくて、私は笑った。 「ありがとう結ちゃん。お互い頑張ろうね!」 いよいよ女子砲丸投げの試合が始まった。 私は鉄球を右手で持って、円状の白い線の中に入る。球を投げる間にこのサークルから出てしまうと、反則になってしまうのだ。 私は投げる方向とは逆方向を振り向くと、左手を空に高く伸ばして、細く息を吐いた。その時フィールドから、パンという銃声が聞こえて歓声が沸いた。私は集中を乱さないよう、意識を自分自身に向ける。よし、いくぞ。 ゆっくりと右膝を曲げ、重心を体の前に移動させる。今度はため込んだ力を左足へ移し、ピンと伸ばした左足を勢いよく後ろに引いた。姿勢はそのまま、右足で地面を蹴るとバックステップをして下がる。二歩下がったところで、上半身を進行方向にぎゅっとひねった。そのまま右手を思い切り前へ押し出すと、掌にあった鉄の球が勢いよく青空へと放たれた。砲丸が手から離れる瞬間、私はいけ! と心の中で呟いた。 空で弧を描いた砲丸が、地面に落ちた。係の人が砲丸に駆け寄ると、メジャーで飛距離を測定する。 「小湊高校、小笠原初音さん。記録は……」
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