春を投げる

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青春の締めくくりが、近づいている。 五月の放課後。県立小湊(こみなと)高校のグラウンドにある砂場に、私は立っていた。 茶色い砂の上に落ちている銀色の砲丸が、夕日に照らされて鈍く光っている。私がその球を右手で掴んで持ち上げると、隣で見ていた(ゆい)ちゃんが目を丸くして言った。 「すごい、初音(はつね)先輩! 力持ちだなあ」 「それ、自然にディスってるわけじゃないよね?」 私がそう言うと、結ちゃんはあたふたしながら答えた。 「そんな! いい意味で褒めてますから。ほんとですよ!」 私が「分かってるって」と笑うと、結ちゃんも「もー」とつられるように微笑んだ。さーっと風が吹き抜けて、私たちの笑い声を夕焼け空へ拾い上げていく。結ちゃんの長い黒髪がさらさらと揺れる。私の短くて茶色い癖っ毛とはえらい違いだ。 私、山田初音は小湊高校・陸上部で、たったひとりの砲丸投げの選手だ。隣の太田結ちゃんは一つ下の2年生で、短距離走が専門だ。私たちは姉妹みたいに仲がよくて、部活中もよく一緒にいる。 私は右手に持っている鉄球を見やる。腕にかかる重さは、ちょうど4kg。女子砲丸投げの大会で実際に使用するのと同じ重さだ。 私は砂場に立つと、周囲を見渡して安全を確認する。結ちゃんも私の動きを察して、砂場から離れてくれていた。 「よし、じゃあ一回やってみるよ」
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