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競馬場で見かけた奇妙な光景
「行けーー------っ‼3-5-7!3-5-7!」
競馬場で汚い格好で大声を張り上げる女性…私が初めて彼女を見た時、衝撃が走った。
身なりを見ると、どう見てもホームレスにしか見えない。
私と同じくらいの年頃の娘がこんなにも落ちぶれているとは、なんてショッキングな光景だろう。
しかも彼女を良く見ると見た目は悪くない。
お洒落な格好で街を歩けば大抵の男達は振り返るくらいの美人だった。
「行けー‼そのまま!そのまま!」
どんな理由があって彼女はここまで落ちぶれたのだろうか?
私は彼女の素性を知りたくなった。
「あっ!………………」
迫力のあった彼女の顔から急に力が消えた。そして悲しそうに天を見上げた。
途方に暮れたその様子は消えてしまいそうなほど虚ろに見えている。
「ハ~イ」
私は何気に彼女に声を掛けてみた。
「何だお前…」
彼女は私を見るなり怪訝な顔付をした。
そして品定めでもするかのように私の身なりを確認した。
「金…金かせよ…」
彼女は初めて会う人間に向かって金を貸せと言った。
私は衝撃のあまり我を失った。
「ハハハ…」
笑ってはいるが半ば呆れ気味だった。思った以上に凄い人間だった。
「貴女はホームレス?」
「悪いか…?私は今晩から葉っぱを食べて過ごさなきゃいけないんだ。だから金を貸せ…」
私の聞き違いだろうか?葉っぱを食べると聞こえていた。
それとも本当に道端の雑草を食べるといってるのだろうか?
私は判断に苦しんだ。
「食べられるの?それ…」
「葉っぱの事か?食べられるじゃなく食べるんだよ…じゃなきゃ死んじゃうだろ!」
私の聞き違いでは無かった。彼女は生きる為に必死だった。
「だから貸せよ…金…今度こそ当たる気がするんだ」
彼女は借りた金でもう一勝負する気だった。
私はてっきり金を借りて今後を凌ぐと思っていた。
生きる為に必死では無かったのか?
私は開いた口が塞がらなかった。
「そうだよなぁ…見ず知らずの人間に金は貸さないよなぁ」
彼女の口から出たのは驚きの言葉だった。世間がそれほど甘くない事を良く理解していた。
「じゃあ、私のパンツを買い取れよ…おっさんだったら高く買い取ってくれるからさぁ」
良くわからない娘だった。
世間が厳しいと理解してるのか舐めているのかどっちなんだろう?
しかも女性の私が女の子のパンツを買い取ると本気で思っているのだろうか?
「パ、パンツって…だったらおじさんに直接売ったら?」
「嫌だよ!気持ち悪い!アンタだから売るんだ!」
何て我儘な理屈だろうか?衝撃的過ぎて眩暈を感じた。
「わかったわ…」
私はしぶしぶお金を渡した。彼女がこれからどんな行動を起こすのか見てみたくなった。
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