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失ったもの
「さあ、もうすぐ出走の時間だぞ!」
観客席に戻った私たちは出走の時間を待ちわびていた。
このレースにはあまり興味が無かったが彼女の喜怒哀楽を見て楽しんでいた。
「ところで…貴女、これが外れたらどうするの?」
「縁起でもない…外れる訳がないだろう!」
やはり彼女にはブレたところは無い。自分の買った馬券が当たると頑なに信じていた。
私は彼女の感情の起伏を見て楽しみたかった。
不安を煽って落ち込んでいる様子を見てみたいと思っていた。
「前のレースだって自信があったのよね?」
「それはそうだが…今度は当たる予感がする!」
「それに外れたって何とかなるさ…」
彼女の事だ、たとえ外れたとしても強く生きていく事だろう。
しかしこのまま落ちていくと最後にはどこに辿り着くのだろうか?
「私はもうお金は出さないわよ!」
私は彼女が期待しない様に釘を刺しておいた。
「ああ…」
申し訳ないが私は彼女が外れるのを期待していた。
彼女が落ちぶれていく様を気づかれないように観察してみたかった。
「さあ、出走だ!」
彼女の事だ、これまでの人生もかなり破天荒な生き方だったのだろう。
「よし!行けー--------っ!6-3-7‼」
私が思う常識では計り知れない事を平然とやってきたに違いない。
「行けーー--‼差せる!差せる!」
これ以上のどん底人生を年頃の女の子がどうやって生き抜いていくのだろうか?
私の興味が削がれる事は無かった。
「そのまま‼そのまま‼」
「あっ!………………………」
レースは幕を閉じた。彼女は悲し気に天を仰いでいる。
「じゃあ、私は行くわ…またね」
後ろ髪を引かれる思いはあったが私はその場を後にした。
「ちきしょう‼」
彼女の最後の言葉が私の背中に大きく鳴り響いていた。
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