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新しいお家
古ぼけたアパートを見るなり裕子のテンションは上がっていた。
「ここで何があったかは聞かないが…良い雰囲気だなぁ~!」
寧ろ何かがあった事を望んでいるとすら感じられる。
「備え付けの家具なんかも使って良いそうよ」
私は裕子の様子を見ながら怖がらせようと思っていたが全くの無駄骨の様だった。
「それ、事故にあった人が残した物だろう?」
「そうだけど…貴女、気にしないじゃない」
「気にしない…そんな事より家賃を払わないから出ていけ!というのは無いだろうな‼」
裕子が気にしてるのは事故よりも家賃だった。
しかし私の力で家賃に限っては免除という事になっている。
私の狙いはここに裕子を囲って観察する事だった。
「大丈夫よ…契約書にだって書いてあるわ…読んでないの?」
「ああ…面倒だから見てない…代わりに読んで内容を教えてくれ」
やはり相変わらずだった。今までも面倒だといって契約書なんか碌に見なかったのだろう。
今まで騙された事は無かったのだろうか?
「ハハハハハ…」
私は裕子の過去を想像して笑った。
「これでやっと風呂に入る事ができる…」
またしても衝撃の事実だ。
「なに⁈今までお風呂にも入っていなかったの⁈」
「当たり前だろう…寂れた神社にまともなお風呂なんて無い!」
裕子はどうだと言わんばかりだが誇れる所など何もない。
「そうだけど…街の銭湯くらいには行ってると思ってた…」
「そんな金は無い‼」
私はギャンブルせずにお風呂に行けよと思わずにはいられなかった。
優先順位を完璧に間違えている。
「だから、ちょっぴり臭かったのね…」
「失礼な事を言うな!ちゃんと河原で行水してるぞ!」
またしても衝撃の事実だ。裕子といると本当に飽きない。
「行水って…河原で素っ裸になって水浴びしてるって事?」
「ああ…ちゃんと頭も体も洗っているぞ」
よく無事に居られたものだと感心した。河原にはホームレスの汚いオジサンがたくさんいる。
若くてピチピチの肌に群がってこなかったのだろうか?
今のご時世では一般の人間だって何をするかわからない。
「良く生きてこられたものね…」
「フフフフフ…」
裕子は誇らしげに笑っていた。
今まで襲われなかった事がラッキーでしかないという事を感じてる様子は微塵も無かった。
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