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働く意欲
暫く裕子を観察していたが働こうという気配は全くなかった。
たまにどこからかお金を工面してきては競馬場に入り浸るそんな毎日を繰り返していた。もちろんそんな競馬の勝率は0%だった。
出向く時には威勢は良いが、帰りは生気を失った死人の様な顔をしていた。
そろそろ行動パターンも見えてきたので、私は新たな燃料を投下させるつもりでいた。
私はどこかへ行った裕子の帰りをアパートの前で待ち構えていた。
するといつもとは違ったゴスロリの格好をした裕子が現れた。
「ハ~イ!」
「なんだ…またアンタか?」
見慣れない格好の裕子は新鮮にも見えるが、性格にそぐわない姿はどこか浮いて見えた。
「今日はいつものボロボロの服装じゃないのね」
「タンスに入ってたから着たぞ…良いんだろ?ついでにパンツやブラも拝借した…」
他人の下着を履くことに抵抗は無いようだった。さすが裕子と私は思った。
「でも、それ故人のモノよ…」
「私は気にしないぞ!」
誇らしげに答える裕子の顔には笑顔すら浮かんでいる。私の質問はナンセンスだった。
「ところであなたの部屋で預かって貰いたいものがあるの」
話しと同時に裕子は面倒だなぁといった顔を見せた。
私は構わず持ってきたキャリーバックの中身を裕子に見せた。
バックが開くと同時に裕子はゴクリと息をのみ目を丸くする。
「こ、これは⁈」
私に向けられた裕子の瞳は¥マークに変わっていた。
「¥10,000,000よ…」
「なんでこんなものを…」
預かってと言ってはいるが裕子がこれを大人しく預かっているとは私は思っていなかった。
我慢できずに手を出してギャンブルを勤しむに決まっている。
裕子の発想ならば使ったとして勝って返せば良いのだから。
「実はね…私もこれを預かったの。でも考えてみたら、こんな所に大金なんかある訳が無い!て所に置いた方が安全だと思ったのよ」
「それで私の部屋か!わかった!」
裕子はやけにあっさり承諾した。お金の事で頭がいっぱいで深く考えが及ばないのだろう。
裕子は私の策略にまんまと嵌った。
「期間は1か月…それとお金が無くなったら弁償して貰うわよ」
「大丈夫!任せなさい!」
自信満々の裕子だが瞳の¥マークは消えていなかった。
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