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ひと仕事終えたあと啜る茶は旨い。
店主は店先でひとりごちる。
件のカラスが小ぶりな姿でカアと鳴いた。
「冷たくするつもりだっただろうって? その通りだよ」
店主は大袈裟にため息をついた。
店の外に放り出すつもりだったが、婆さんにじとりとした視線をくれられ、仕方なしに親に連絡した。少女はくまを抱き眠っていたので、迎えが来るまで店のベンチに寝かせておいた。少年の方は結局迎えは来ず、自分の足で雪の降る暮れかけた道をひとり帰っていった。
「あの子の黒いものは退治した。あとは管轄外だ」
相手はカァァァと不服そうに長く鳴く。
「子供だからって冷たいわけじゃない。誰にでも冷たいつもりだよ」
カラスは頭を縦にひと振りしパサリと羽ばたいて店主の頭の上に留まり髪をつつく。毛繕いをしているらしく、店主はしかめつらになった。
「子供たちの宝物は彼が何処かに隠したそうだ。もう場所がわからないものもあるらしい。くまさんは彼の部屋にいたそうだけど……他は幻だったのに、本当にここまで歩いてきたのかな」
カラスは返事をしなかった。代わりに頭を上げ背筋を伸ばす。
頭頂部が生暖かくなった。
「……お前」
俄かにカァカァと声を上げるので、店主は恨みがましい顔で腰を上げ店の戸を開けた。
冷たい空気が吹き込み、夜空に粉雪の舞う中カラスは羽ばたき何処かへ飛んでいく。
店主は黒い影が天空を旋回し消え去るのを見送ると、身を縮め戸を閉めた。
「店じまいだな」
暖簾を下げカーテンを閉じ、店の奥へと入っていく。
ギョロリとした狸の四つの目が、その背中を見送っている。
店に暗闇が降りた。
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